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2010年3月 7日
Grant Sculpin クチバシカジカのハッチアウト
2010年2月28日。
南米チリの大地震によって発生した津波が日本沿岸を襲った。
ここ、宮城県南三陸町志津川では、1896年の明治三陸大津波、1933年の昭和三陸大津波、1960年のチリ地震津波により大きな被害を受けており、他の地域より津波に対する警戒心と恐怖心はひときわ強い。そのため志津川駅前には、1960年のチリ地震の時の津波がどの高さまで達したかを示すモニュメントが置かれているほどだ。また志津川の沿岸部には防波堤、防潮堤や水門等が設置されており、町ぐるみで津波に対しての防衛を行っている。この日、南三陸町のシンボルでもあるクチバシカジカのハッチアウト(孵化)を撮影しようと、腕に自信のある水中撮影マニアが前日の2月27日から志津川に集まっていた。27日は水中写真家の中村宏治さん、阿部秀樹さん、グラントスカルピン 佐藤長明さんによる、南三陸町水中写真コンテストの授賞式があったので、なおのことである。
僕の場合は、前回の志津川でのダイビングでクチバシカジカのオスが抱卵する姿をみて、是非、孵化する瞬間も見てみたいと思い、志津川への遠征を計画していたのだった。前回、この志津川でクチバシカジカを見たのは、2010年1月10日である。その時に撮影した写真がこれである。クチバシカジカは、雌が産卵した後、孵化するまでの約70日間、雄が抱卵し卵の安全を見守る。2009年の年末ごろから産卵が始まったので、ちょうどこの2月の最終週と3月の第一週が70日目にあたり、孵化のピークであろうと予測していたのである。
待ちに待った、その日に、大津波がやってきたのである。
大津波警報が発令され、港は封鎖。町民は一斉に避難をすることになった。もちろん我々も例外ではなく、クチバシカジカに会うこともかなわないまま、避難することになったのである。しかし、このまま諦めることもできず、牡蠣の養殖棚の被害がおさまらない一週間後の志津川に再びやってきたのであった。
3月6日(土曜日)。
数日前からの大雨で、志津川の湾内は真茶色に濁っていた。うねりもありそうだ。いやいや、先週は津波で一本も潜れなかったのだ。濁りやうねりなど問題ではない。とにかく、その瞬間を目にするためなら、7度を切る水温でも全く気にならない。グラントスカルピン主宰の佐藤長明さんが話しかけてきた。「先週の約束を今日は絶対果たしますよ・・・」。すごい。さすがである。心配を振り払うように笑いながら僕らはボートに乗り込んだ。
そして、ドラマは既に始まっていた。
何人ものダイバーが、寄り添ってこの瞬間を待っていた。
真っ白な乳白色の卵が、半透明に輝きだし、稚魚の目が見えると孵化寸前の状態になる。
稚魚たちは、身体をくねらせながら、薄い膜を破り、海中へと飛び出していく。
思ったよりも凄く早い。
ピントを合わせるのは至難の業である。
また一匹、飛び出してきた。
父親が胸鰭を使って水流を卵にかけると、その勢いに乗って飛び出してくる。
にゅ~~~・・・ピュ!
という感じだ。
思わず「すげ~!」と叫んでしまった。
11年間志津川に通って、ようやく見ることができたという方もいらしたが、それほどの貴重なシーン。
拍手喝采である。
この親子は、あの大津波にも負けず、この日を迎えたのである。
感動的な瞬間であった。
- 観察地: 志津川
- 学名: Rhamphocottus richardsonii
- 標準和名: クチバシカジカ
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様々な障害を乗り越えて出逢え しかも瞬間を撮影でき本当に良かったですね ☆
執念が伝わったのでしょうね
Mamiさん>
とても感動的でした。
津波というのはご存じの通り、風波とは違って、水面から水底まで全ての海水が一気に流れます。志津川の牡蠣棚の被害は酷いもので、この日も復旧できていない部分がたくさん見受けられました。
海底の生物たちがどうなってしまったか非常に心配していましたが、クチバシカジカや、ヒゲムシャギンポ、ナガツカなど抱卵中の魚たちのほとんどが無事で安心しました。
次はダンゴウオの抱卵シーズンを狙ってみたいと思います。
是非、一緒に行きましょう!
前週の津波は本当に残念でしたが、今回、見事、ハッチアウトの瞬間に出会え、念願叶いましたね。
感動的なシーンです。
親子が津波にやられずに残っていて良かった。
ダンゴウオのハッチもやっつけてください。
おめでとうございます
すごいね、、、ハッチアウトシーン、超興奮しただろうね〜
先超されてしまった〜
でも、見せていただきありがとうございました
執念のショットですね、
生命の誕生のハッチアウト、見ようと思って見れる物では有りません。
よぉ~お見事の一言です!
脳みそ大好き先生>
念願がかないました~。
うねりがひどくてなかなか思うようには撮影できませんでしたが、見れただけでも感謝しなくては!ヒメフタスジカジカ、ヒゲキタノトサカ、ナガツカ・・・などなど、たくさん卵がありましたよ。是非、先生もリベンジしてください!
みかん>
皆に「今日はみかんさん来ないの?」と聞かれるので、「そろそろ志津川にみかん警報が出そうだな」と答えておきました(笑)。やっぱりピークは津波の日だったみたいだね。この日はほとんどの卵巣がハッチ終了でした。
paroparoさん>
paroparoさんからコメントいただけるなんて感激です!
明鐘でも色々な魚の産卵~抱卵~孵化が見れるのではないかと思うんですよね。
前回みたダンゴウオは成魚でしたから、きっと抱卵しているはずです。(もうハッチしてしまったかも?)
明鐘の卵カレンダー作りましょうよ!
Endlessblueさんが欲しかった瞬間では無いでしょうが、しっかり撮れてます。
良かったですね(^O^)v
先週のリベンジができて。
SOLは、肉眼はおろか、カメラでも充分確認できなかったので、
この写真で、あらためて確認ができて嬉しいです。
実は、かな~りアテにしてました(^_^;)
SOLさん>
撮影できただけでも良しとしなきゃですね;;;
でも、4枚もクローズアップレンズを持って行ったのに、どうして稚魚を接写しなかったのか。
どうしてもっと、ストロボ調整をまめにチェックできなかったのか。
なぜに、シャッタースピードをこまめに確認しなかったのか・・・
後悔先に立たずです。
お兄さん、すごいです!
2週続けて通ったかいがありましたね。よかったですね!
親が胸鰭で水をあおっているところ、見たいです。
思わず声が出てしまう気持ち、わかります。
私も来年はみたいなあ・・・。
お兄さん!すごい写真ですね~
私は近くでどんなシーンを見られているのかと気になると言うか・・
ドキドキしてましたぁ・・・
素晴らしいシーンに出会えたこと私も嬉しく思います。
ご迷惑かけっ放しの2日間でした・・
今後も頑張りますのでよろしくお願いします
ふじたさん>
どうもです!やっと見ることができてとてもうれしいです!
でも、自分は視力があまり良くなく、カメラのファインダー越しに狙っているときは、ほとんど「勘だけ」が頼りでして・・・。
毎日ブルーベリー食べて、視力を鍛えなきゃ!
saiさん>
お世話になりました~~~!!
来週もお世話になりに行くぞよ(笑
よろしく~~!